beki雑記

オタクのライブレポ

2019年1月の読書  

 

田中雄二AKB48とニッポンのロック ~秋元康アイドルビジネス論』

 

AKBの歴史を秋元康から600頁超でひもといた本。正直このタイトルをみたとき、アイドルマスターシンデレラガールズ多田李衣菜ちゃんが○○ってロックだよね…となつきちに言うような申し訳程度のロック要素しかないとたかをくくっていた。そんな想像どおり確かに600頁中大半はAKBについての言及だが、作者が書籍編集者・音楽ライターだった一面もあり戦後の日本商業音楽史の概要を知るのに適したものとなっている。

例えば、第1章【AKBは何が新しかったのか】では、2000年代のアニメ魔法先生ネギま!のOPテーマ曲「ハッピーマテリアル」を2ちゃんねるの一部の板の住人がオリコン上位にして歌番組に出演させよう!!!!という運動がなぜウィークリー3位になっても実現しなかったかについて、声優の所属事務所が大手芸能事務所で組織される「音事協」に加入していなかったからだろうと説明しているのは膝を打ってしまった。もちろん、近年ではけものフレンズどうぶつビスケッツ×PPP」やラブライブ「μ's」「Aqours」、バンドリ「Roselia」などのユニットが地上波のゴールデンタイムの音楽番組に出ることは珍しいことではなくなったが、2000年代を振り返ってみると確かにあそこまで流行したけいおん!の声優をエムステで見た記憶はない。また、第0章【プロローグ】では70年台の吉田拓郎の騒動からなぜフォークソンガーがTV番組に出ないか等を解説したりと、AKBに興味がなくても読めるつくりになっている。個人的には、アイドルマスターシンデレラガールズ橘ありす役の佐藤亜美菜さんが声優に抜擢当初アイマスのオタクから叩かれていた時代から現在の見事な手のひら返しといっていいほどの絶賛具合までを書いていたのはポイントが高かった。いやこの間の西武ドームのfact、演出も合わせてすごかったですからねマジで。

 

チャールズ・カヌーセン『帰国子女-帰国する前に親子で読む本』

 

小学生から中学生の帰国子女が日本に帰国した際に英語力を維持する勉強法や日本の学校での立ち回り方、帰国子女枠のある大学一覧等をまとめた本。正直自分は英語がまったく話せないし、帰国子女でもなんでもないのだが、帰国子女がどういう思いを持っているのか気になって手に取った。作者は外国人であり翻訳本特有の読みにくさはあるのだが、英語力の維持にはテキストでの勉強以外にもyoutubeの動画を見たり、海外の友人と週末通話しながらマインクラフトをすることも含まれていてすごく具体的だった。また、日本での学校文化と海外の学校文化は大きく異なっており、アメリカでは教師に盾突いたり男女問わず仲良くすることがスクールカースト上位者のクールなふるまいだったとしても、日本でそれをやると一気に異常者扱いされるのは文化の違いだと痛感した(後者について、転校してすぐ女子生徒に自己紹介をしつづけたら「ナンパ男」のレッテルを張られつまはじきにされたとのこと)。また、学年が1つ違うだけで先輩後輩の上下関係になる決まりごとに違和感を持つ帰国子女が少なくないというのが日本の当たり前は海外の当たり前ではないんだなと衝撃を受けた。でも確かにそういうことは少なからずあって、インターネットの人間ともし会社や学校で出会っていないからこそ(それが実質的に対等かは置くとしても)対等な人間関係を構築できるのだと思った。帰国子女やその親のみならず、日本と海外の文化の違いについて興味があれば読みたい1冊。

 

司馬理英子『よくわかる女性のアスペルガー症候群

 

人付き合いが苦手な発達障害の女性に向けて書かれた本。タイトルを見たとき、「精神科医なのに今時自閉症スペクトラム障害ではなくアスペルガー症候群を使うんだ…」と思ったのだが、巻末の補足ページにあえて使っていると言う説明があって少し安心した。発達障害の本は近年発行が多いのだが、この本は女性にターゲットを絞っているのが強み。例えば、男性コミュニティよりも複雑な女性グループとの付き合い方やガールズトークのこなしかた、男性との交際の中での性的な接触など、一般的な発達障害の本ではあまり見られない記述があって新鮮だった。特に、女性としての身だしなみ・おしゃれのページでは、6例もTPOに合ったコーディネートの記載があり、男性向けの本の寝癖を直す・ネクタイをちゃんと締めるレベルとは大分異なっているなと思ってしまうとともに、女性に普段求められることの重さを少し感じた。

 

吉田 裕子『大人に必要な「読解力」がきちんと身につく 読みトレ』

 

現代人に必要な読解力をつけるためのトレーニング本。読解力?と言われてもすぐピンとこないが、作者はとあるベストセラーのビジネス本(内容が薄いという評価が多いとのこと)の漫画版の発売に対して「これでようやく読める」という1件の投稿を見て、もしかして読解力がない人が増えているのではないか?と思ったとはじめにに記している。これはおれも少し納得するところがあって、例えば『君たちはどう生きるか』の漫画版が結構な売れ行きを見せているところを見ると本編自体の内容だってそこまで厚くないんだからせめて原著で読んでくれと思ってしまうし、コンビニで売っている類書多数の内容が薄い自己啓発漫画が幅を利かせているところをみると、読書という習慣自体がだいぶすたれているのでは?と危惧してしまう。

本編の内容としては、文章の要点の見つけ方、接続語指示語助詞から読み取る文章の把握、文章を図解化する方法、読解力の長期的な伸ばし方など例題とともに文章の読み方をレクチャーしている。その中でも特に、玉石混交のインターネットの情報を読み取る力を学ぶこれからの時代に欠かせないリテラシーについて学ぶ4章が印象的だった。まず、作者は以下のような例を挙げている。

 

男って、どうしてここまで気がきかないん?こっちがどんだけ尽くしてやってるか、全然気づいてないっていうね。「夕食いらない」って電話しただけで「オレえらい」って思ってんの、マジ3歳児。この残った夕食はどうしたら良いか教えてほしいなぁ?節約しろっていうのどの口~?

(吉田 裕子『大人に必要な「読解力」がきちんと身につく 読みトレ』124p)

 

 

これを見たときツイッターで毎日見る!!!!!!と聲をあげてしまった。この文章、すべての男は気が利かないと一般化してしまっているのが致命的だ。こんなツッコミどころ満載の文章を全世界につぶやいたらまあ間違いなくクソリプの1件2件は来てもおかしくはない。こんな感じでやたらと具体的な例(とそれに対する批判リプライ等)を挙げながらも、改善案(上記の文章なら男を夫にするなど)などを出しているのが非常に実用的だと思った。おそらくこの本が筆者が冒頭で述べたベストセラーの漫画版を読む人には届かないとは思うが、平易で非常に読みやすいのでそのような人の目に触れることを切に願う。

 

劇団雌猫『浪費図鑑 悪友たちのないしょ話』

 

アニメやソーシャルゲーム、同人誌、ホスト、ディズニーランド等にお金を費やす女性たちにスポットを当て、その思いを語ってもらった本。皆さんの趣味に対する熱量がすごく伝わってきて純粋にすごく面白かった。

例えば、若手俳優で浪費する女というコラムでは、自分がプレゼントした服をその俳優が着てくれるのが楽しくてつい全身をコーディネートしてしまうに至ったというのには笑ってしまった。個人的に一番好きなコラムはあんスタに浪費する女で、まずいきなり同人175スレの解説をしていて爆笑せざるを得なかった。おれはあんスタについて、めちゃくちゃ女性向けで人気があり、池袋のゲーセンでのプライズの設定がエゲつないということしか存じ上げないが、自分の推しがガチャやイベントで来たら自引きしたり走らないと担当失格の烙印を押されてしまうと述べている点が在りし日のアイドルマスターシンデレラガールズ(モバゲー版)を思い出しエモくなってしまった(※1)。そしてなぜカチカチゲーでつまらないと彼女自身がいうあんスタをプレイするのか?という問いにキャラクターがとってもえっちだからです!と即答していて性欲に忠実すぎる回答に腹を抱えて笑った。

この本の魅力としては、なかなか現代用語の基礎知識でも掲載されないようなオタク用語の解説が欄外に載っていることが挙げられる。また、浪費女2000人アンケートという浪費事情を探る統計では、年齢や年収、居住形態(※2)が記載されており、これを読めばタイムラインで見るあの人はいつもエゲつないお金の使い方をしているけど一体何やっている人なんだろう…?という疑問が多少解消できるかもしれない。

おれもライブに年20回前後行くので会社の人間から若干引かれることがあるが、この本を読んで仲間がいる”よ!!(ワンピースモンキー・D・ルフィ)と安心してしまった。趣味への浪費が激しい人に読んでもらいたい1冊。

 

 

 

※1

彼女がいう課金マウンティングはもう自分のタイムラインではめったに見なくなってしまったのだが、そういう時代が確かに(一部だけかもしれないが)あった気がするし、たまに見かける気がする。そういう空気感を思い出したい時は三才ムック編『走り続ける男たち モバマス廃人』を読みたい。

 

※2

54.2%が同居だったり、68.8%が~20万/月の収入だったりとなかなか興味深い。