beki雑記

オタクのライブレポ

2019年2・3月の読書

岡本 健『巡礼ビジネス ポップカルチャーが観光資産になる時代』2018/12 KADOKAWA

 

聖地巡礼の観光学』の実質的な続編。前著『聖地巡礼の観光学』は著者の2012年の博士論文を手直しして本にしただけあって、若干取り扱うアニメの古さと固い文章であったが、今回は新書という事もあって非常に読みやすいものとなっている。取り扱う作品も、ラブライブサンシャインや艦これ、刀剣乱舞ポケモンGOなどの新しいコンテンツについて言及しているほか、らきすたと地域との10年など、聖地の枠を越え地域に根付いたコンテンツの今など、いかにアニメコンテンツと共存していくか?という視点で書かれていたり、クラウドファンディング等の新たなビジネスモデルにも触れているのも佳かった。個人的に著者の文章が好きなので、著作である『ゾンビ学』も機会があれば読みたい。

 

伊田 広行『シングル単位思考法でわかるデートDV予防学』2018/12 かもがわ出版

 

デートDVという概念を具体的な事例とともに解説しシングル単位思考を身に着けよう!という本。シングル単位思考とは、交際相手を自身の一部とみなす従来のカップル単位ではなく、両者の間に境界線があり、必ずしも意見が一致する必要がなく、お互いのことを尊重し合う思考とのこと。この思考は当たり前のようでありつつも、「愛情があれば嫉妬束縛は当然だ」という「ふつうの恋愛観」こそがデートDVにつながる危険因子だと著者は指摘しており、カップル単位の思考では弱い立場の自由がなくなると主張している。

ただ、自分がこの本を読んだ際に、この考え方がはたして一般的に浸透するのか?と思ってしまった。というのも、一般的に人々の共感を受けるラブソングの多くが2人で1つのカップル単位の思考法の歌(※1)が大半であるため、人権意識が急速に高まりを見せる昨今でもこの価値観は安々とは変わらないだろうと感じざるを得ない。ただ、5章で述べている別れからのストーカー化への対策等は非常に実用的であり、シングル思考法を身に着けるかはともかくとして、公教育等で多少なりとも学ぶ機会があってもいいように思う。

 

野瀬貴士『ネットに騙されない本当の中古車選び』2018/11 啓文社書房

 

中古車販売に長年携わってきた作者が書く中古車の選び方本。「ネットに騙されない~」とあるように、中古車についてネットには様々な情報があるが、ただでさえ玉石混合なのに加えて、最近ではSEO対策に余念のない企業のまとめブログなどにより検索上位が荒らされ確かな情報にアクセスしづらくなっているため、自社の宣伝もなくここまで詳しく1冊にまとめているのは本当に貴重でほぼ類書がないと思われる。例えば、コミコミ価格のカラクリ、各種中古車検索サイト一覧、法人登録車がオススメの理由、写真解説でわかる外装・装備品等のチェックポイント、試乗の重要性など非常に多岐にわたって注意点がまとめられているため、はじめて中古車を購入する際に読みたい1冊。

 

千々石さわ『今井リサVS湊友希那担強火バンギャ』2019/2  

 

バンドリロゼリアのゆきな様に馴れ馴れしい態度(モブバンギャ主観)をとる今井リサに対して嫉妬の炎を燃やす強気モブバンギャの二次創作。バンドリのアニメ2期を視聴の皆様はご存じのとおり、ライブ後ゆ”き”な”さ”ま”~と限界すぎるクソデカ聲を出す女オタクの存在が明らかになったが、それをテーマに同人誌を作ることにまず恐れ入ってしまった。正直本当に面白いとしか言いようがないのだけれど、特に好きなのが実質的な主人公であるモブバンギャのゆうめろ。まず、ツイッターのアイコンが名は体を表すようにマイメロの時点で笑ってしまったし、ロゼリアバンギャのオフ会の乾杯の挨拶がゆきな様へのガチ恋口上で始まるのも限界すぎるし、リサちゃんのインスタを見て(ゆきな様のアカウントよりもゆきな様情報が得られるのでフォローは絶対にしないがリストに入れて見ている)「秋刀魚の香草焼きってババアかよ」と毒を吐いていたのには思わず吹き出してしまった。本編も、ガチ恋限界バンギャであるゆうめろがゆきな様をどれだけ好きだとしても、演者とバンギャの関係は越えらないところは刺さったし、孤高の存在のゆきな様も変わっていくゆきな様も好きだけれどもゆきなさまを変えていく今井はマジ赦せねえよ…という心情は本当にゆうめろの(良くも悪くも)ピュアさが出ていて佳かった。今後モブバンギャ本増えてほしいな…と9話でリサ様と書かれたタイムテーブルを見て思いました。

 

高橋 直子『オカルト番組はなぜ消えたのか 超能力からスピリチュアルまでのメディア分析』2019/01 青弓社

 

今月のmasterpiece。

1960年代のオカルト番組から2000年代のスピリチュアル番組に至るまでメディアがどのような意図を持って超常現象や霊能力等の番組を放送していたのかを順序立てて説明し、なぜそのような番組が(消えたとは言わずとも)少なくなってしまったのかを解説した本。

この本を要約すると、1960年~1980年台の超能力や霊能力等のオカルト番組は視聴者が半信半疑であることが前提で、あるかどうかわからないロマンを楽しむものだったからこそ成立したものであり、やらせを含めて真実か否かは視聴者の判断に任せられていた。だが、1990年代以降、超能力や霊能力等を科学的に検証するという番組が多数になり、番組構成上、霊能力が本物(であるだろう)という前提で作らざるを得なくなった。そのため、1980年代までのオカルト番組=視聴者が半信半疑で楽しむエンターテイメントとしての図式が成立しなくなりつつあったという。さらに、2000年台になり流行ったスピリチュアル番組は1990年台までのオカルト番組とも異なり、「トークインタビュー番組」であるため、トークが中心であるとしつつも、前世が○○だったという発言に対してツッコミの余地もなく、『信じてしまう視聴者がいることも念頭に置きながら』霊能力等を全面的に肯定する番組づくりが行われたことが、視聴者に判断の余地を任せあるかどうかわからないロマンを楽しむものだったオカルト番組を終焉に向かわせたというのが著者の主張である。

個人的には、1968年に『万国びっくりショー』という番組でメスや麻酔を使わず指で切開し治療する海外の心霊手術をあたかも真実のように放送し、その是非を視聴者の判断に任せていたというのは今の感覚では信じられないし、ブラックジャックの「その子を殺すな!」に元ネタがあったとは…と感慨深い気持ちになった。オカルト番組論というよりはメディアとそれを見る視聴者とのリテラシー論と言う感じなのでオカルトに興味がなくてもぜひ読んでいただきたい。

 

 

 

※1

好きな曲を貼ります。

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