beki雑記

オタクのライブレポ

2018年10月の読書

 ■宮尾益知『カサンドラのお母さんの悩みを解決する本: 発達障害の夫に振り回されないために』

カサンドラとは、発達障害等の夫とのコミュニケーションができずに悩んでいる状態のことを指す医学用語でギリシャ神話の悲劇の預言者からきているとのこと。これを読んだとき、いきなりハードルを上げたな?という印象だったがまあ面白かった。要するに自閉症スペクトラム気味(いわゆる「アスペ」)気味の夫とどのように向き合っていくかを妻側の立場から書いた本。

作者曰く、社会では人当たりもよく一定の評価を受けているため、家庭ではパートナーや子供よりも自分の興味関心を優先してしまうということを妻が不満に思い友人や家族に相談しても、「きちんと稼いでいるから問題ない」「男の人なんてそんなものよ」と理解されにくいのがより問題を難しくしているという。自分が読んでまず感じたのが、これが高度経済成長期~バブル崩壊までの「家制度」が機能している時代だったらよくも悪くも友人や家族の言葉のように問題視されなかったんだろうな、と。現代では女性の地位向上や世帯収入の減少により共働きを選択する家庭が増加しているため、夫も家庭の仕事をすることが求められるようになった。だからこそ最近自閉症スペクトラム等が取り上げられるようになったのは幸か不幸かわかんないなあ。昔の漫画のキャラクターの父親像ってこの本に挙げられてるような人がいっぱいいたし。

接し方については「曖昧な言葉を使わない」「きちんと順序立てて説明する」という一般的な発達障害との付き合い方本だが、妻の立場から書かれた本は少ない印象なのでぜひ「うちの達(※1)がさあ」とツイッターで全世界につぶやく女性に読んでいただきたい1冊。

 

■磯部 涼 編『新しい音楽とことば』

若手からベテランアーティストに詞とは?を問うインタビュー集

 

・じん

アジカンバックホーンが好きとか楽曲派のオタクっぽくて良い

 

やくしまるえつこ

やくしまる自身のキャラ自体もあるけれど、インタビュワーがインタビューしていなくて笑ってしまった。インタビュワーが9割話してやくしまるがそうですね程度のことしか答えてないのひどすぎるでしょ。

 

大森靖子

高校時代毎日銀杏ボーイズ峯田にメールを送ったというエピソードは必見。あと、大森が憧れる峯田と道重さゆみのどこが好きか?と問われ「なりたい自分に自分を無理矢理当てはめている/ほんものになりたいけどなれない」というところは納得がいった。朝ドラ俳優ミネタカズノブさんのことは存じ上げないが、2005年のアルバム『DOOR』で全般的にミックスし忘れたのかな?という荒さなのに夢で逢えたらだけはちゃんとミックスしているところなんかは本当にダサカッコいいし、彼女がいうところのほんものになりたいけどなれない感が出ていると思う。あと、道重さゆみのファンが作ったMAD動画(※2)のBGMがサカナクションですごく悔しくなったというのはどれだけ道重さゆみが好きなんだよと笑うとともに同棲代のアーティストの中でもサカナクションの存在感を感じさせる。最後にやっぱり峯田にメール毎日送るのは普通に迷惑だと思う。

 

・の子

昔はミュージシャンではなくニートだったから自己の対話ができていたけど、今はバンドマンとしての生活があるので難しくなっているというのが印象的だった。確かに『友達を殺してまで』『8月32日へ』は今聞いても全く鮮明であり素晴らしいアルバムだと思っている。特に「死にたい季節」「23歳の夏休み」「僕は頑張るよっ」はなんでこんなにモラトリアムを上手く表現しているのだろうな…と今聞いても涙が出てしまう。ただ、の子自身「怒りを出し切ってしまって真っ白」「25、6のことから虚無感がテーマになってしまっている」と言っており、それが曲に反映されているのはなんとも皮肉な話だ。

また、青春男と電波女のタイアップについてすごく自分の書きたいことと作品のテーマが合っていたと言っており、道理でスーパー名曲しかないはずだ…と思った

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でも今のの子の描く33歳の夏休みみたいな方向もエッジのきいた虚無感が心地よいので聞いていただきたい。

 

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・若旦那

この本で一番面白いインタビュー、面白い点は以下。

 

◆若旦那の音楽のルーツ

まあ概ねジャマイカ等のレゲエだろうな…と思っていた。なんとブルーハーツ尾崎豊さだまさし。いやいやブルーハーツと尾崎は今の時代にも通ずる普遍性があるしヤンキー精神を持っているなら間違いなく刺さるのでわかる。なぜそこでさだまさし?と思ったらそこからが面白い。夕刊フジを読みながら老いぼれてくのはゴメンだと前者は歌うのに対して、さだは夕刊フジを読み老いぼれる親父というああはなりたくないどこにでもいる大人を歌っている、そこに若旦那が涙してしまったというのは自分の考える湘南乃風のイメージを完全に壊してくれた。そして、さだまさしは不良に刺さるかという問いに運転免許証を更新する際の違反者講習で流れる償いを聞かされると刺さる人は多いと思うという解像度が異常に高い回答に爆笑してしまった。違反者講習前提かよと。

 

◆「純恋歌」制作秘話とマイルドヤンキー

当初ジャマイカリスペクトのレゲエをやっていたがジャマイカ人アーティストに「なんでジャマイカの真似をしているんだ、日本人なら日本の音楽を継ぐのがレゲエだろ」と言われ2ndから方向性を変えたというのも面白かったし、メンバー全員でコンセンサスが取れてなかったというのも面白かった。そんな中作られた「純恋歌」が製作期間1年半でひとつひとつの言葉を吟味し緻密に計算されて作られた曲だったと明かされたのは衝撃だった。前述したとおり、メンバーのコンセンサスがとれておらず、こんな曲作りたくない!というメンバーがいる中「レゲエへの愛をテーマとして歌うならいい」となんとか了承を得て親への手紙形式で詩を作るものの、REDが親への感謝を素直に綴る歌詞に対し、家庭環境がよくない若旦那をはじめとした他のメンバーの歌詞が「一生ありがとうとは言えないかもしれないけど…」といったものであったため、恋人に愛を歌う歌にしようと折り合いが付いたのも家族への気持ちへの温度差があって笑ってしまった(笑えない)。正直、インターネットに消費されるこの曲にこんなドラマがあったのかと想像すらしていなかったし、若旦那が普段の気持ちを適当に綴ったんだろうなと思っていたのを良い意味で裏切られた。

また、若旦那自身、当時の東京のヤンキーはカネと裏切りしかない世界で俺はそこで育ってきたが他のメンバーは地元の仲間意識の強いマイルドヤンキーだったと語っている。だからこそ「パチンコ屋逃げ込み時間つぶして気持ち落ち着かせて景品の化粧品持って謝りに行こう」という不良だけではなく一般層にも刺さる言葉が紡げると語っており、なるほど…と唸ってしまった。

ライブでタオルを回す集団じゃないんやな…と彼らを見る目が変わるのでぜひ読んでいただきたい1冊。

 

■坂東 真砂子『メトロゴーラウンド』

夏休みに友達が突然疾走し、小学生限定地下鉄乗り放題券「メトロゴーラウンド」を使い探すもそこは異世界だったという物語。唐突に小学生の頃に読んでトイレに一人で行けないレベルで怖くなったのを思い出し再度読んだが児童向けディストピアとしてすごくよくできている印象。例えば、勉強した時間が通貨となり、多種多少なおもちゃが買える反面、反抗するものは工場で処理されるという設定はありがちではあるものの、児童向けの平易な文章でありつつ作者の筆力が高いため一気に物語に引き込まれる。また、表紙の主人公の2Pカラーのイラストが佳すぎる。

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※1

以前ツイッター発達障害気味の夫のことを「達」と略している女性を見かけましたんですけどこれ一般的なんですかね。

 

※2

なぜなりたいの?「好きだから」         

https://www.nicovideo.jp/watch/sm20683276

モー娘。のレッスン怖すぎませんか?