beki雑記

オタクのライブレポ

2018年12月の読書  

 

柴田書店編『パフェ - フルーツカットのテクニック、デザインと盛りつけのメソッド-』

 

都内を中心に有名なフルーツパーラーのパフェを50種類以上紹介した本。

寿司は一定以上の年収になると止まるというネットスラングがある。これは本当に言いえて妙な言葉でそれを思い出しながら本書を読むとパフェも一定以上の金額になるとコーンフレークが入らなくなるんだなあと思わざるを得なくなった。いや本当にこの本に載っている2000円オーバーのパフェ、マジでそこらへんのファミレスやカラオケ店で食べるようなパフェとは本当に質が違うんですよ。例えば、盛り付けやチョコレートの飾りの切り方、アイスの作り方、フルーツの選び方などなど一つ一つの所作に何かしらの意味がある。

おれもこの本に載っている高野フルーツパーラーのキウンパフェとデコポンパフェを食べたことあるけど本当に感動体験というか涙が出てくる味というか。写真も綺麗で再現できるかはともかく一部レシピも載っており、各パーラーの歴史についても軽く触れているので美味しいパフェに目がない方にはぜひよんでいただきたい一冊。

 

岡本健『アニメ聖地巡礼の観光社会学: コンテンツツーリズムのメディア・コミュニケーション分析』

 

アニメの舞台となる自治体にファンが赴くいわゆる聖地巡礼をカルチュアル・スタディーズ的に論じた本。地域振興のやり方に関する本は地域支援コンサルや企業家が書くことが多い中で、地域振興の一種である聖地巡礼について大学教授が論じる本はおそらく類書がないと思われる。この本を手にする前は、2010年以降のアニメ聖地ビジネスが活性化した後の話が多いのかな?と思って読み進めていたのだが、作者もあとがきで触れているように2012年に発表した博士論文が元になっているため、若干タイムスリップしたような感覚に陥る。例えば、2000年代前半から後半にかけて放送されたおねがいティーチャーひぐらしのなくころに、涼宮ハルヒの憂鬱けいおんなどの話が中心でかつ、東浩紀動物化するポストモダン』への言及率の異常な高さがよけいに2000年代を感じさせる要因となっていた。また、mixiコミュニティでのファン活動のまとめや、1990年代にもセーラームーンや究極超人あ~る、炎の蜃気楼などで聖地巡礼などがされていたこと、当時の聖地巡礼に来ていたファンについてメディアはどう報じていたかを1つ1つ資料を引用して論じているのは好印象であり、やたらとおねがいティーチャーに触れていたのは少し面白かった。WOWOWが試聴できなかった当時の自分にとって、おねティはアニメージュニュータイプきゃらびぃ(アニメイトで配布される冊子)をはじめとしたアニメ誌での情報のみであり、少しえっちな眼鏡の先生が出るアニメという認識しかなかった。そのため、聖地巡礼されるような情熱的なファンを持ったアニメというのはこの本で初めて知ったので今度ツインズと一緒にみてみたいと思う。前述のとおり、2012年発表の論文がベースとなっているため、2010年台のガールズ&パンツァーラブライブサンシャイン等へのアニメにも言及した続刊に期待したい。

 

木下 斉『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』

 

高校時代から地域再生に携わってきた実業家が書くどうやって地域を生き返らせるかを小説として書いたHOW TO本。おおまかなあらすじとして、普段は東京で会社員として働く主人公が実家の商店の店じまいの手伝いをするために地元に帰ると簡単には畳めないということを知り落胆するも、ひょんなことから若手企業家としてバリバリ働く高校時代の同級生と再会し実家を含めた周辺地域を再生していくことになるというのが本筋の内容だ。

この本の魅力としては純粋に作者の筆力が高く、エンタメ経済小説としても十二分に面白いところ。そして作中の文章に色を付け、同じページ内に注釈として作者の起業した時の経験談(若干自己啓発的な要素があり少し鼻につくところはあるが)や用語の解説を乗せているのが好印象。読んでいるうちに作者が貸出募集の広告を出しているのに契約書を結ぶ段階で手のひらを返す地方の商店街の人間とバブル時代を忘れられずに周辺相場を無視した金額を取ろうとする不動産業者と成功するとすぐにやっかむ地域住民と役所の補助金が本当に憎いんだな…ということが伝わってくるため、本当にそこらへんで苦労したんだなと感じさせられた。前述したとおり非常に読みやすい本なので、起業に興味がなくてもエンタメ経済小説が好きならぜひ読みたい1冊。

 

里中 一人『お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない! 「軍用地投資」入門』

 

現役の沖縄防衛局職員が書いた(執筆当時)軍用地投資の入門書。まずまっさきに現役職員がこんなパンクロックな本を出して懲戒事由にひっかからないのか!?と思ったのだが、処分を受けていてそりゃあなあ…と感じたし、回収を行ったそうで紙の本はプレミアが付いている(電子書籍版は入手可能)。そんないわくつきの本ではあるが、内容は非常にスタンダードな不動産投資入門書であった。まず軍用地とは?から軍用地の通常の不動産との違い、情報入手の方法、現地視察の旅費交通費としての計上方法など非常に丁寧に書かれており、今後このレベルの類書は出ないと確信できる良書。ここまで丁寧に書けたのも作者自身が普段から米軍や地元住民と折衝を行う立場の防衛局職員だったからだと思われる。ただ気になったのは、作者も少し触れてはいるが基地返還という投資上のリスクを抱えているのに年利約2%だという点。個人的にはその政権一つでひっくり返る可能性があるのに、年利2%はなかなかままならないなあと感じてしまった。一風変わった不動産投資方法を知りたい方にオススメな1冊。